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2025.12.13

顎関節症の音は放置してOK?クリック音の原因と段階的な治し方

顎関節症の音は放置してOK? クリック音の原因と段階的な治し方

新宿オークタワー歯科クリニックです。

顎を動かすたびに「ポキポキ」「カクカク」と音が鳴る経験はありませんか。食事中や会話中に顎から音がすると、周囲の視線が気になったり、このまま放置しても大丈夫なのかと不安になりますよね。実は、その顎の音は「顎関節症」のサインかもしれません。

この記事では、顎の音が鳴る原因から、自分で実践できるセルフケア、そして専門家による治療法までを段階的に解説します。ご自身の顎の不調に真剣に向き合い、快適な毎日を取り戻すための一歩を踏み出しましょう。

その顎の音、放置は危険?顎関節症のサインかも

顎を動かしたときに「ポキポキ」や「カクカク」といった音が鳴る経験は、決して珍しいことではありません。しかし、その音を「ただの癖」や「一時的なもの」だと軽視してしまうと、取り返しのつかない事態につながる可能性があります。実は、これらの顎の音は、顎関節やその周辺組織に何らかの異変が起きているサインかもしれません。

初期の段階では音だけの症状であっても、放置すると顎関節や筋肉への負担が蓄積され、やがて痛みを伴うようになることがあります。口を開け閉めするたびにズキズキと痛んだり、お口が大きく開けられなくなったりするなどの、より深刻な症状へと進行するケースも少なくありません。日常生活に支障をきたす前に、ご自身の顎の状態に意識を向け、早期に対処を始めることがとても大切です。

まずはセルフチェック!あなたの顎は大丈夫?

ご自身の顎の状態が気になる方は、以下の項目で簡単にセルフチェックをしてみてください。当てはまるものが多いほど、顎関節症の可能性が高まります。

口を大きく開け閉めしたときに、耳の前あたりで「ポキポキ」「カクカク」といった音が鳴る

指が縦に3本入るくらい口を大きく開けられない、または開けにくい

食事中や会話中に顎やこめかみに痛みを感じることがある

硬いものを食べると顎がすぐに疲れる、または痛む

朝起きたときに顎がだるい、または口を開けにくいと感じる

特定の歯や顎の片側に負担がかかっているように感じる

歯ぎしりや食いしばりを指摘されたことがある

顎関節症で現れる主な症状(音・痛み・開口障害)

顎関節症は、主に「関節雑音(顎の音)」「痛み」「開口障害」という三つの主要な症状が特徴的です。これらの症状は単独で現れることもあれば、複数が組み合わさって現れることもあります。

まず、関節雑音とは、口を開け閉めしたときに顎関節から発生するさまざまな音のことです。最も多いのは「クリック音」と呼ばれる「カクカク」「ポキポキ」という音で、これは顎の骨の間にあるクッション材(関節円板)がずれることで生じます。さらに症状が進行すると、「ジャリジャリ」「ギシギシ」といった「摩擦音」が聞こえるようになることもあります。痛みは、顎関節そのもの、または顎を動かす咀嚼筋(そしゃくきん)に生じます。食事中や会話中、大きく口を開けたときなどに痛みを感じることが多く、重症化すると安静時にも痛みが続く場合があります。

開口障害とは、口を大きく開けられない状態を指します。健康な状態であれば指が縦に3本入るくらい口が開きますが、顎関節症になると指2本分、あるいはそれ以下しか開けられなくなることがあります。また、口を開けたときに顎が左右にずれてしまう「開口偏位」や、一度開いた口が閉じにくくなる「クローズドロック」といった症状が現れることもあります。これらの症状は、日常生活における食事や会話に大きな支障をきたすため、早期の診断と治療が重要です。

クリック音を放置するとどうなる?悪化する可能性も

顎のクリック音を単なる癖として放置してしまうと、症状が徐々に進行し、最終的にはより深刻な状態に陥る可能性があります。初期のクリック音は、顎関節内の「関節円板」と呼ばれるクッション材が一時的にずれて、元の位置に戻るときに鳴る音であることが多いです。しかし、この状態が長く続くと、関節円板が完全に前にずれたままになってしまい、下顎の骨が円板を乗り越えられなくなります。この状態になると、クリック音自体は消える一方で、口が突然開かなくなる「クローズドロック」と呼ばれる深刻な開口障害を引き起こすことがあります。

クローズドロックの状態になると、食事や会話が極めて困難になり、日常生活に大きな支障をきたします。また、顎関節への継続的な負担は、顎関節の骨自体に変形をもたらす「変形性顎関節症」へと進行するリスクも高まります。さらに、顎関節症は顎だけでなく、全身の健康にも影響を及ぼすことがあります。慢性的な顎の痛みや緊張は、頭痛、首や肩のこり、耳鳴り、めまいといった全身症状を引き起こす原因となることも指摘されています。

このように、初期段階の軽微なクリック音であっても、放置することで症状は悪化し、回復が難しくなるケースも少なくありません。ご自身の顎からの音に気づいた場合は、症状が軽いうちに対処を始めることが、将来のより大きな不調を防ぐ上で非常に重要です。

なぜ顎から音が鳴るの?クリック音のメカニズムと原因

顎を動かしたときに聞こえる「カクカク」や「ポキポキ」といったクリック音は、単なる癖や一過性の現象ではない可能性があります。この音は、顎の関節やその周囲の組織に何らかの不調が起きているサインかもしれません。ここでは、なぜ顎からそのような音が発生するのか、そのメカニズムと背景にある具体的な原因について、専門的な視点から詳しく掘り下げていきます。

顎の構造と音が発生する仕組み(関節円板のズレ)

顎関節は、下顎の骨(下顎頭)と頭蓋骨の間に位置し、食事や会話など、口を開閉するたびに複雑な動きをしています。この二つの骨の間には、「関節円板」と呼ばれるクッションのような組織が存在しており、下顎の動きに合わせてスムーズにスライドすることで、骨同士が直接こすれるのを防ぎ、関節の動きを滑らかにしています。

正常な状態であれば、口を開けるときも閉じるときも、下顎頭と関節円板は連動して動きます。しかし、何らかの原因でこの関節円板が本来の位置から前方にズレてしまうと、口を開ける際に下顎頭がこのズレた円板の盛り上がった部分を乗り越えようとします。このとき、「カクン」という引っかかるような音が発生するのです。これが、顎関節症の代表的な症状であるクリック音のメカニズムです。

円板がズレたまま口を開け続け、下顎頭が円板を完全に乗り越えると音が鳴り止むこともありますが、口を閉じるときに再び円板が元の位置に戻ろうとする際に、もう一度「カクン」と音が鳴ることもあります。この関節円板のズレは、放置するとさらに深刻な症状へと進行する可能性があるため、注意が必要です。

日常生活に潜む主な原因①:歯ぎしり・食いしばり・TCH

顎関節症の原因として最も多く見られるのが、無意識に行われる「歯ぎしり」や「食いしばり」です。睡眠中の歯ぎしりは、体重の約2倍もの力が歯や顎に加わると言われており、日中の食いしばりも同様に、持続的に強い負担を顎関節や咀嚼筋に与えます。これらの行為は、関節円板のズレを引き起こしたり、顎周りの筋肉を過度に緊張させたりすることで、顎の不調へとつながります。

特に注目すべきは、「TCH(Tooth Contacting Habit:上下歯列接触癖)」です。これは、食事や会話時以外にも、上下の歯が不必要に接触している癖のことを指します。多くの人は、リラックスしているときには上下の歯がわずかに離れているのが正常だと認識していません。しかし、実は上下の歯が触れ合っているだけで、顎周りの筋肉は常に緊張し続けてしまいます。

TCHは、ストレスや集中しているときなど、無意識のうちに行われていることがほとんどです。この持続的な筋肉の緊張が、顎関節への負担を増大させ、関節円板のズレや顎関節の炎症を誘発する大きな原因となります。TCHの自覚がないまま放置していると、徐々に顎の不調が進行してしまうため、意識的に歯を離す習慣をつけることが大切です。

日常生活に潜む主な原因②:ストレスや生活習慣の乱れ

現代社会において避けられないストレスも、顎関節症を引き起こす大きな要因の一つです。精神的なストレスを感じると、私たちの体は無意識のうちに筋肉を緊張させ、それが歯ぎしりや食いしばりを誘発したり、さらに悪化させたりするメカニズムがあります。顎周りの筋肉も例外ではなく、常に緊張状態に置かれることで、顎関節に過度な負担がかかり、関節円板のズレや炎症を引き起こしやすくなります。

また、睡眠不足、不規則な食生活、過労といった生活習慣の乱れも、顎関節症の発症や悪化に深く関わっています。これらの乱れは、全身の免疫力や体の回復力を低下させ、顎周りの筋肉の疲労を蓄積させやすくします。体が十分に休息できない状態では、筋肉の緊張も緩和されにくく、顎の不調が慢性化するリスクが高まります。心身の健康状態は、顎の健康に密接に直結しているため、日頃からストレスマネジメントや規則正しい生活を心がけることが重要です。

日常生活に潜む主な原因③:噛み合わせの不調や姿勢の悪さ

顎関節症の原因は、無意識の癖やストレスだけでなく、物理的・構造的な要因も大きく影響します。その一つが「噛み合わせの不調」です。虫歯治療で入れた詰め物や被せ物の高さが合っていなかったり、生まれつきの歯並びが悪かったりすると、食事の際に特定の歯や顎の一部分に過度な負担がかかりやすくなります。このアンバランスな力が顎関節や周囲の筋肉に持続的に加わることで、関節円板のズレや炎症を引き起こし、顎関節症の原因となることがあります。

さらに、猫背、頬杖をつく、うつ伏せで寝るなど、「日常的な姿勢の悪さ」も顎関節に悪影響を及ぼします。例えば、猫背は頭部の位置を前方にずらし、首や肩の筋肉に常に負担をかけます。この影響は、顎周りの筋肉のバランスにも波及し、顎関節の正常な動きを妨げることがあります。また、頬杖やうつ伏せ寝は、顎関節の一方に直接的な圧力を長時間かけるため、関節円板や靭帯に損傷を与える可能性があります。これらの悪い姿勢を改善することは、顎関節症の予防や治療において非常に重要です。

【ステップ1】まずは自分でできる!顎関節症のセルフケア

顎関節症の症状改善には、専門的な治療も重要ですが、まずはご自宅で気軽に実践できるセルフケアから始めてみましょう。日々の生活習慣を見直したり、簡単なマッサージや温めるケアを取り入れたりすることで、症状の緩和が期待できます。このセクションでは、今日からすぐに実践できる顎への負担を減らす生活習慣、顎周りの筋肉をほぐすマッサージ、そして血行促進に役立つ温熱療法について詳しくご紹介します。

顎への負担を減らす生活習慣の見直し

顎関節症の症状を和らげるためには、日常生活の中で顎に負担をかけている習慣を見直すことが大切です。以下のような点を意識して、今日から実践できることから始めてみましょう。

硬い食べ物(フランスパン、ナッツ類、するめなど)や、長時間噛むガムはなるべく避けてください。

食事の際は、左右どちらか一方だけで噛むのではなく、両方の歯で均等に噛むように意識しましょう。

頬杖をつく癖がある方は、意識してやめるように心がけてください。

うつ伏せで寝る姿勢は顎に負担をかけるため、仰向けで寝るようにしましょう。

無意識に上下の歯を接触させてしまうTCH(Tooth Contacting Habit:上下歯列接触癖)を防ぐため、パソコンのモニターや冷蔵庫など目につく場所に「歯を離す」と書いた付箋を貼り、意識的に歯を離す習慣をつけましょう。

ストレスは顎周りの筋肉の緊張を強める原因となるため、自分なりのリラックス方法を見つけ、ストレスを溜め込まないように工夫してください。

長時間のスマートフォンの使用や、パソコン作業での前傾姿勢は、首や肩、そして顎に負担をかけます。適度に休憩を取り、姿勢を正すことを意識しましょう。

顎周りの筋肉をほぐすマッサージ&ストレッチ

硬くなった顎周りの筋肉を優しくほぐすことで、顎の動きがスムーズになり、痛みやこわばりが軽減されることがあります。特に、食事の際に使う「咬筋(こうきん)」と、こめかみあたりにある「側頭筋(そくとうきん)」は、顎関節症と深く関連する筋肉です。

まず、咬筋は奥歯を噛みしめたときに頬が膨らむ部分にあります。指の腹を使ってこの咬筋を優しく円を描くようにマッサージします。次に、側頭筋はこめかみから耳の上あたりにかけて扇状に広がっている筋肉です。こちらも指の腹でゆっくりと圧をかけながらほぐしていきます。マッサージは、痛みを感じない範囲で「気持ち良い」と感じるくらいの強さで行い、それぞれの筋肉を5~10回程度、ゆっくりとほぐしましょう。

また、簡単なストレッチとして、口をゆっくりと大きく開け閉めする運動も効果的です。鏡を見ながら、痛みを感じない範囲で「あー」と声を出すようにゆっくりと口を開け、数秒キープしてからゆっくり閉じます。この開閉運動を5~10回繰り返しましょう。これらのマッサージやストレッチは、お風呂上がりなど体が温まっているときに行うと、より効果を実感しやすくなります。ただし、痛みや症状が悪化する場合はすぐに中止し、歯科医師に相談してください。

温熱療法で血行を促進し痛みを緩和する

顎周りの筋肉の緊張による痛みやこわばりには、温熱療法が効果的です。温めることで血行が促進され、筋肉がリラックスしやすくなり、痛みの緩和につながります。ご自宅で手軽に実践できる方法として、蒸しタオルやホットパックを使用するのがおすすめです。

蒸しタオルは、水に濡らして軽く絞ったタオルを電子レンジで30秒~1分ほど加熱することで簡単に作れます。加熱しすぎると火傷の危険があるため、温度を確認してから使用しましょう。痛みやこりを感じる顎の付け根や頬のあたりに、温かい蒸しタオルやホットパックを5~10分程度当ててください。じんわりとした温かさが筋肉の緊張を和らげ、心地よさも感じられるでしょう。ただし、顎の周りに強い炎症や腫れがある場合は、温めることで症状が悪化する可能性があるため、この温熱療法は避けるようにしてください。その際は、冷湿布などで冷やす方が適切な場合がありますので、判断に迷う場合は歯科医師に相談しましょう。

【ステップ2】セルフケアで改善しない場合は専門家へ相談

顎関節症の症状改善に向けて、まずはご自身でできるセルフケアから始めることはとても大切です。しかし、セルフケアを続けても症状がなかなか良くならない場合や、かえって悪化しているように感じる場合は、専門家による診断と治療が必要な時期かもしれません。このセクションでは、どのような症状が現れたら病院に行くべきか、そして顎関節症の専門家はどこの科を受診すれば良いのかについて、詳しくご説明します。早期に専門家の力を借りることで、症状の悪化を防ぎ、より効果的な治療へと進むことができますので、ご自身の状態と照らし合わせながら読み進めてみてください。

病院に行くべき症状の目安

ご自身の顎の症状が専門的な治療を必要とするサインかどうかを判断するためには、いくつかの目安があります。以下に挙げる症状に心当たりがある場合は、歯科医院や口腔外科の受診を強くおすすめします。

セルフケア(マッサージ、温め、生活習慣の見直しなど)を2週間以上続けても、症状が全く改善しない、または悪化している

顎やこめかみ、耳の周辺の痛みが強くなっている、または慢性的に続いている

口を開けるときに指2本分(約3cm)も開かなくなった

食事をするのが困難なほどの強い痛みがある、または食欲不振に繋がっている

朝起きたときに顎が「ロック」したように開かなくなり、自力で元に戻せないことがある

顎の音が以前よりも大きくなった、または「ジャリジャリ」といったような不快な音に変化した

顎関節症は何科を受診すればいい?(歯科・口腔外科)

顎関節症の症状が現れた際に「何科を受診すれば良いのか」と迷われる方は少なくありません。顎関節症の専門家として第一に選択肢となるのは、「歯科」または「口腔外科」です。これらは顎の骨や関節、噛み合わせ、そして口腔内の状態全般に精通しており、顎関節症の診断から治療までを一貫して行えます。

一般的な歯科医院でも顎関節症の初期段階であれば対応していることが多いですが、症状が複雑な場合や診断が難しいケース、あるいはより専門的な治療が必要と判断された場合には、大学病院の口腔外科や、顎関節症を専門とするクリニックを紹介されることもあります。ご自身のかかりつけ歯科医院に相談し、必要に応じて専門医への紹介を依頼するのも良いでしょう。口腔外科では、より詳細な検査や、外科的処置が必要な場合にも対応が可能です。

歯科医院で行う主な検査と診断の流れ

歯科医院を受診すると、まず「問診」が行われます。ここでは、いつからどのような症状があるのか、痛みの程度や種類、日常生活での癖(歯ぎしり、食いしばり、頬杖など)、ストレスの有無、既往歴などについて詳しく聞かれます。症状を正確に伝えるためにも、受診前にご自身の症状をメモしておくと良いでしょう。

次に、「視診・触診」が行われます。口の開閉時の顎の動きや開口量、顎関節や咀嚼筋の圧痛の有無、関節雑音の種類などを確認します。その後、必要に応じて「レントゲン検査」を行い、顎関節の骨の形態や、関節円板の位置関係にある程度の異常がないかを調べます。これらを総合的に評価することで、顎関節症の種類や重症度、原因を特定し、適切な治療方針を立てていくのです。

症状が複雑な場合や、より詳細な状態を把握する必要がある際には、「CT」や「MRI」といった高精度な画像検査が行われることもあります。これらの画像検査では、関節円板のズレや変形の程度、骨の吸収や増殖といった細かい変化も確認でき、より正確な診断に繋がります。

【ステップ3】歯科医院で行う顎関節症の段階的な治療法

セルフケアを続けても顎関節症の症状が改善しない場合や、より深刻な症状が現れている場合は、専門家である歯科医院での治療が必要になります。顎関節症の治療は、患者さんの負担を最小限に抑えるため、いきなり大掛かりな処置を行うのではなく、保存的な治療法から段階的に進めていくことが基本です。具体的には、マウスピースを用いたスプリント療法、痛みを抑える薬物療法、顎の機能改善を目指す理学療法、そして必要に応じて噛み合わせの調整などが行われます。それぞれの治療法について詳しく見ていきましょう。

スプリント療法(マウスピース)による負担軽減

スプリント療法は、顎関節症の治療において最も一般的で効果的な方法の一つです。これは「スプリント」と呼ばれる、患者さん一人ひとりの歯型に合わせてオーダーメイドで作製するマウスピースを、主に就寝時や日中に装着する治療法です。スプリントは、歯ぎしりや食いしばりによる歯や顎への過度な負担から守るクッションのような役割を果たします。これにより、顎関節やその周囲の筋肉にかかるストレスを軽減し、顎関節の安静を保つことができます。

スプリントの主な役割は、①無意識の歯ぎしりや食いしばりから歯と顎を守り、歯のすり減りや欠けを防ぐこと、②顎関節を正しい位置に誘導し、関節円板のずれを修正または安定させることで、顎関節の負担を軽減すること、③顎周りの筋肉の緊張を和らげ、リラックスを促すことで痛みを軽減することです。これらの効果により、顎関節の炎症が治まり、筋肉の疲労が回復し、症状の改善が期待できます。

治療の流れとしては、まず歯科医院で精密な型取りを行い、患者さんの口腔内にフィットするスプリントを作製します。完成後は、何度か装着した際の噛み合わせやフィット感を調整し、快適に使用できるよう細かく調整を重ねていきます。装着時間は症状によって異なりますが、歯科医師の指示に従い、正しく使用することが重要です。

薬物療法(痛み止め・筋弛緩薬)

顎関節症による痛みや炎症が強い場合には、症状を緩和するために薬物療法が用いられます。主に処方されるのは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と呼ばれる痛み止めです。これは顎関節や周囲の筋肉の炎症を抑え、痛みを和らげる効果があります。また、筋肉の緊張が非常に強い場合や、歯ぎしり・食いしばりが原因で筋肉痛が生じている場合には、筋弛緩薬が処方されることもあります。

薬物療法は、あくまで症状を一時的に抑える対症療法であり、顎関節症の根本的な原因を治療するものではありません。そのため、スプリント療法や理学療法といった他の治療法と組み合わせて行われることが一般的です。薬の使用期間や量は、症状の程度や患者さんの状態に応じて歯科医師が判断しますので、指示された用法・用量を守って正しく服用することが大切です。

理学療法(運動療法・マッサージ指導)

歯科医院で行われる理学療法は、セルフケアで行うマッサージやストレッチとは異なり、専門的な知識を持った歯科医師や理学療法士が、患者さんの顎の状態に合わせた指導を行います。具体的には、硬くなった顎周りの筋肉(咀嚼筋)を直接マッサージしてほぐしたり、顎の動きを改善するための「開口訓練」といった運動療法を指導したりします。

運動療法では、顎の可動域を少しずつ広げることを目的としたストレッチや、顎の筋肉のバランスを整えるための訓練が行われます。また、必要に応じて低周波治療器などの物理療法機器を用いて、血行促進や筋肉のリラックスを促すこともあります。これらの理学療法は、患者さん自身が自宅でも継続できるよう、具体的な方法や注意点を丁寧に指導されることが多く、セルフケア能力を高めることを目的としています。

噛み合わせの調整

顎関節症の症状が他の治療法ではなかなか改善しない場合や、明らかに噛み合わせの不調が原因であると診断された場合には、噛み合わせの調整が検討されることがあります。この治療は、一度行った修正は元に戻せない「不可逆的」な処置であるため、非常に慎重に行われます。

具体的な方法としては、ご自身の歯をわずかに削って、上下の歯が均等に接触するようにバランスを整える方法や、古くなった詰め物や被せ物の高さが合っていない場合に、それらを作り直して適切な噛み合わせを回復する方法があります。また、重度の歯並びの乱れが顎関節症の原因となっている場合には、専門的な矯正治療が必要となるケースもあります。

噛み合わせの調整は、顎関節への負担を根本的に軽減し、顎の動きをスムーズにすることを目的としていますが、安易に行われる治療ではありません。そのため、歯科医師は患者さんの状態を詳しく検査し、他の治療法で改善が見られないと判断した場合に、メリットとデメリットを十分に説明した上で治療計画を立てていきます。

顎関節症に関するよくある質問

顎から鳴る音や痛みに悩まされている方は、「この症状はいつまで続くのだろう」「どれくらいの費用がかかるのか」「日常生活で特に気を付けることはあるのだろうか」といった疑問をお持ちかもしれません。ここでは、顎関節症に関して多くの方が抱きやすい具体的な疑問について、Q&A形式でお答えしていきます。治療期間の目安、医療費の保険適用、そして普段の生活で注意すべき点など、皆さんの不安を解消し、より安心して治療に取り組んでいただけるよう、分かりやすく解説します。

治療期間はどれくらい?自然に治ることもある?

顎関節症の治療期間は、症状の重さや原因、そして患者さん一人ひとりの状態によって大きく異なります。軽度の症状であれば、数週間のセルフケアや簡単な治療で改善が見られることもあります。しかし、症状が進行していたり、複数の原因が絡み合っていたりする場合には、数ヶ月から1年以上かかることも珍しくありません。

ごく軽度の顎関節症であれば、生活習慣の見直しやセルフケアを徹底することで、自然に症状が落ち着くケースも確かに存在します。たとえば、歯ぎしりや食いしばりの改善、ストレスの軽減、顎に負担をかけない食生活などを意識するだけで、顎の不調が解消されることもあります。しかし、症状が長引いたり、悪化の兆候が見られたりする場合は、自己判断せずに歯科医院を受診することが大切です。早期に専門家の診断を受けることで、症状の悪化を防ぎ、適切な治療へと進むことができます。

治療にかかる費用は?保険は適用される?

顎関節症の治療にかかる費用は、どのような検査や治療を行うかによって異なりますが、基本的に健康保険が適用されます。初診時の問診、視診、触診、レントゲン検査など、診断に必要な基本的な検査は保険診療として行われます。

具体的な治療法としては、多くの場合で用いられるスプリント療法(マウスピース)も保険適用となります。3割負担の場合、スプリントの作製にかかる費用は概ね5,000円から10,000円程度が目安となるでしょう。その他、痛み止めや筋弛緩薬などの薬物療法、理学療法なども保険診療の範囲内で行われることがほとんどです。ただし、矯正治療など、かみ合わせの根本的な改善を目的とした治療や、特殊な素材を用いた治療については自費診療となる場合がありますので、事前に歯科医師に確認することをおすすめします。

顎関節症の人が日常生活でやってはいけないことは?

顎関節症の症状を悪化させないためには、日常生活でいくつかの点に注意が必要です。以下に、特に避けていただきたい行動をまとめました。

硬いものを無理に噛むこと(フランスパン、ナッツ類、するめなど)

大きな口を急に開けること(あくびをする際は、手で顎を支えるなどしてゆっくり開けましょう)

長時間ガムを噛んだり、同じ側の歯ばかりで食べ物を噛んだりすること

頬杖をつく習慣がある方は、意識してやめること

うつ伏せで寝ること(顎に負担がかかりやすいため、仰向けを意識しましょう)

楽器の演奏やスポーツなど、顎に負担のかかる行為を長時間続けること

長時間スマートフォンやパソコンを操作する際に、猫背になったり、首が前に突き出たりする姿勢をとること

これらの行動を意識して避けることで、顎への負担を軽減し、症状の改善や悪化の防止につながります。

まとめ:顎の音は体からのサイン。早めのケアで快適な毎日を取り戻そう

顎から鳴る「ポキポキ」「カクカク」といったクリック音は、決して軽視してはいけない、体からの大切なサインです。顎関節やその周辺に何らかの不調が起きていることを知らせるものであり、放置すると痛みや口が開きにくくなるといった、より深刻な症状へと進行する可能性があります。特に、初期段階でセルフケアを始めることで、症状の悪化を防ぎ、快適な状態を維持できるケースも少なくありません。

しかし、セルフケアだけで改善が見られない場合や、症状が悪化するようであれば、迷わず歯科医院や口腔外科などの専門家へ相談することが重要です。専門家は、症状の原因を正確に診断し、スプリント療法や薬物療法、理学療法など、症状や原因に応じた適切な治療法を提案してくれます。無理な自己判断は避け、専門家の助けを借りながら、ご自身に合った治療プランを見つけることが、顎関節症を克服するための近道となります。

この記事を通じて得た知識を活かし、ご自身の顎の状態に意識を向けてみてください。そして、少しでも不安を感じたら、早めに適切な対処を始めることで、顎の不調から解放され、食事や会話を心ゆくまで楽しめる、快適な毎日を取り戻しましょう。

 

少しでも参考になれば幸いです。
自身の歯についてお悩みの方はお気軽にご相談ください。
本日も最後までお読みいただきありがとうございます。

 

監修者

小野瀬 弘記 | Onose Hiroki

東京歯科大学卒業後、千代田区の帝国ホテルインペリアルタワー内名執歯科・新有楽町ビル歯科に入職。
その後、小野瀬歯科医院を引き継ぎ、新宿オークタワー歯科クリニック開院し現在に至ります。
また、毎月医療情報を提供する歯科新聞を発行しています。

【所属】
日本放射線学会 歯科エックス線優良医
JAID 常務理事
P.G.Iクラブ会員
日本歯科放射線学会 歯科エックス線優良医
日本口腔インプラント学会 会員
日本歯周病学会 会員
ICOI(国際インプラント学会)アジアエリア役員 認定医、指導医(ディプロマ)
インディアナ大学 客員教授
IMS社VividWhiteホワイトニング 認定医
日本大学大学院歯学研究科口腔生理学 在籍

【略歴】
東京歯科大学 卒業
・帝国ホテルインペリアルタワー内名執歯科
・新有楽町ビル歯科
小野瀬歯科医院 継承
新宿オークタワー歯科クリニック 開院

 

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